オーストラリア パース道場巡りツアー 大和国際合気道
- Yoshie Sugai
- 7月23日
- 読了時間: 4分
パース道場巡りツアーの第7回目は、ムラット館長が率いる大和国際合気道にて、江澤先生と私のセミナーを開催させていただきました。今回のセミナーには、これまで訪問させていただいた各道場の先生方や道場生の皆さんも多数参加され、会場は熱気と学びの空気に包まれていました。
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① 子供クラス:技よりも“逃げる力”を育む指導
子供クラスでは、技術そのものを教えることよりも、筋力・ジャンプ力・反射神経を楽しく養う運動を通して、子供たちの基礎能力の向上を目指しました。
これは、望月稔先生が「子供には合気道の技ではなく、柔道を通して強く柔軟な身体をつくるべきだ」と教えられていた方針に基づいたものです。また、私の道場では、杵淵師範から「子供には“逃げること”を最優先に教えなければならない」と指導されており、今回もその精神に則って指導させていただきました。
子供たちはしばしば“技を見せたい”という気持ちを持ちます。それが自己表現や自信の育成につながることも理解しています。しかし、指導者として大切なのは、危険を察知する力・それを避ける判断力・そして逃げる勇気と方法を教えることです。子供が大人に技をかけられるという“危うい幻想”を植え付けてはなりません。今回の運動指導は、そのことを皆様に改めてご理解いただきたく実施させていただきました。
② 大人クラス:武道の本質とは何か
大人クラスでは、「武道の目的とは何か?」という根本的な問いについて、有段者以上の方々に再認識していただきたく、お話をさせていただきました。
現代は世界的に暴力が日常化しており、武道の世界においても“技を極めること”に偏ってしまう指導者が見受けられます。しかし、武道とは本来「教育」であるということを忘れてはなりません。
嘉納治五郎先生は、他者に危害を加える武術を安全な形に変え、そこから日常生活にも活かせる“学び”を引き出すものへと昇華させました。そしてその精神を明確に言語化したのが望月稔先生であり、武道を通じて「気・体・智・徳・備心」を学ぶことが道場の本質であると説かれました。
道場は、単に技を学ぶ場ではなく、社会をより良くし、平和を築く人材を育てる教育の場であるべきです。そして武道家は「精力善用・自他共栄」の理念を胸に、全ての能力を善い方向に使い、互いを高め合う建設的な競争を目指すべきです。
③ 大人クラス:受身の再確認
もうひとつ、大人クラスで強調したかったのは、「受身」の大切さです。難解な技よりも、正しく安全に身を守る術=受身こそが、武道の基礎であり最重要であると考えています。
何十年も身につけてきた受身を見直すことには勇気が必要ですが、柔軟な思考を持つオーストラリアの先生方であれば、きっと新しい理解を素直に受け入れ、すぐに身につけてくださるだろうと感じました。自らの過去の方法を一度否定し、新たな知見を取り入れる柔軟性こそが、本当の「武道家」の証ではないでしょうか。
④ 大人クラス:もたれ込みと力の制御
最後に、私の基礎を土台に、江澤先生から「もたれ込み」技法についてご指導いただきました。
先生は、「掛け」はただ自己満足のためのものであってはならず、「受け」は攻撃に対抗するのではなく“合わせる”ことが重要だと教えてくださいました。力や体格の差がある相手に対しても、怪我をさせることなく、技がしっかりとかかっている状態をつくること――それが本物の武道技だと。
「受け」にあざや怪我を残すような技は、真に洗練された技術ではなく、むしろ未熟さの現れであるという点も改めて教わりました。
最後に
もしかすると、参加された皆様の中には、「驚くような技を見せてくれるだろう」と期待していた方もいらっしゃったかもしれません。ですが、武道とは“すごい技”を披露するためのものではありません。
なぜこの技があるのか。どうしてこの技が成立するのか。その背景にある“深い意味”を理解し、探究し続けること――それこそが「武道の道」なのです。
私たちのメッセージを理解し、共感してくださった指導者の方々も多くいらっしゃったと感じています。そしてこのような大切な機会を提供してくださったムラット先生に、心より深く感謝申し上げます。
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