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執筆者の写真Yoshie Sugai

恩送り

「恩送り」とは、誰かから受けた恩を直接その人に返すのではなく、別の人に送ることを言います。1つの優しさや助けを受けたとしても、その喜びや感謝を送る人数に上限はありません。


先週の金曜の朝の事でした。ベランダから家の前の公園を眺めていると、親子づれや犬のお散歩に来ている人達に混じって、ベンチでおじいさんが横たわっていました。暖かい日差しでしたので、「日向ぼっこに来ているのかなあ。」と思っていました。この公園にはよくご年配の方が来ているので、その時は特に気には留めませんでした。


ところが、午後3時頃に洗濯物を取り入れる時も、おじいさんはまだ公園のベンチに座っていました。そして夕方に用があって出かけた時もまだ公園に居て、帰路に公園を見てみると18時になろうというのにまだ座っています。

これはおかしいと思ったので、家にあるホッカイロをつかんで、販売機で暖かいミルクティーを買っておじいさんの側に近寄りました。


「おじさん、寒いでしょう? これ暖かいから飲んで」身体が冷え切っていて指が思うように動かず、缶のプルも開けられない位でした。すぐにホッカイロを身体と靴下の裏につけてあげました。「おじさん、何か食べてる?」「今日はまだ何も食べてない」と聞いた私は近所のスーパーに走って行って、豚汁とおにぎりを買って温めて公園に戻りました。「あったかい内に食べて」おじいさんは、食べ物をかざし、感謝の意を表しながら夢中で食べていました。その間、私はネットでホームレス支援団体を調べて電話をかけ、救護の要請をお願いしていました。


支援団体は大阪でしたが、市の担当部署に連絡をつけてくれました。最初は市役所まで歩いて来させれば何とかできると言っていましたが、「私の両親も80歳を超えているけれど、40分もあるような距離歩ける訳が無い!」と訴えました。「でももう遅いので」と言われましたが、「真夜中じゃないし、まだ夕方じゃないですか!このまま野たれ死にさせるんですか?!両親と同じような高齢の方をこのまま放っておいて私は寝れません!」と訴えました。ようやくボランティア団体の方が迎えに来て下さり、おじいさんは週末はシェルターに宿泊させてもらい、週明けに市の担当者と支援団体の方とでこの先をどうするか相談する事になりました。大阪の支援団体の方も市の担当者の方も、御丁寧に報告とお礼の電話を私にくれました。彼らも一人でも救えればと一生懸命なのだと思います。


私が付き添ったのは約2時間でしたが、それでも足は凍りつくように冷たくなっていて、身体の芯まで冷え切っていました。おじいさんはやむを得ない事情で1週間ほどから野宿をしていたようです。車に乗る際は、身体が冷え切っていて思うように動かず、二人で支えてやっと歩けた状態でした。本当に1週間よく頑張られたと思います。心も身体も辛かったと思います。建具の仕事を75歳まで頑張ってやってこられた立派な方です。色々な事情でこういう状況に陥ってしまったのでしょう。まさか80歳超えて住む場所や食べる事ができなくなるなんで想像もつかなかった事でしょう。ですがこのような災難は誰にでも起こり得る事です。今、ウクライナで避難シェルターに隠れている子供達も1ヶ月前まで外で元気に遊んでいたのだと思います。まさか寒さと飢えで震えるとは想像もできなかったでしょう。


私は今まで沢山の方に助けられ、優しくされてきました。毎日元気に過ごし、カフェでコーヒーを飲んで楽しめる位、生活に余裕があります。そのような私だから受けた恩を何十倍にもして恩送りをする事ができると思っています。


横断歩道をやっとの思いで歩いているご老人がいれば、その後ろで一緒にペースを合わせて歩きます。万が一信号の色が変わっても私が車を止めれるからです。視覚障害の方が目の前にいらっしゃれば、何かお手伝いできるかと声をかけます。迷子で泣いている子供がいれば、お話ししながら手を繋いでインフォメーションブースに連れて行きます。これらの事はお金を使わなくても出来ます。


その他には、生活苦で困っている子供達の進学支援や生活支援の募金をしています。なぜなら、そういうお子さん達を道場で教えてきた経験があるので、未来への希望を経済的理由で失ってほしくないからです。私の道場もコロナ化の影響を受け、続けるのもギリギリの現状ですが、それでもできる事はあります。


この恩送りの話は、私がやった事を皆さんに伝えたいという事でなく、皆さんに普段気を留めていなかった事に気づきを持ってもらいという願いを込めて書きました。


今、戦争で問題になっているあの方も、柔道を学ばれたのに「精力善用・自他共栄」の考え方を忘れているようで大変残念です。彼もPay Back でなくPay it forwardを大切にすべきだと思います。




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